「カラオケバー vs カラオケボックス」

 「カラオケ」は外国でも知られ始めて来ている日本語の一つだ。昔は「カラオケ」と言えば「カラオケバー」のことだったが、今ではその他に「カラオケボックス」も存在する。「カラオケバー」も「カラオケボックス」もそれぞれに特徴があって面白い。

 「カラオケバー」の場合、自分のグループの歌を聞くだけでなく、他の客の歌も聞く。他の客が全然知らない人達であっても、「その歌は誰が歌った歌ですか」、「いやあ、お上手ですねえ。もう何年ぐらいカラオケをなさっているんですか」、「カラオケ教室にでも通ってるんですか」とか歌を媒介にして会話が始まる。「カラオケバー」の良いところは、自分の歌が披露できるだけでなく他人の歌を鑑賞することができる点だ。上手な人の歌をライブで聞ける楽しみだ。特にそれが良い歌で自分でも歌えそうだったら、その歌の名前を覚えておいて後日その歌が入っているテープを買って歌えるように練習することができる。他の人の歌を聞いて自分のレパートリーを増やす良い機会になる。また、年代が違う人達が客でいると、自分の年代とは違った歌を聞くことができるし、違うジャンルの歌を聞くこともできる。上手な人は年代、ジャンルに関わらず上手で、聞いていて本当に楽しくなる。こぶしのきいた演歌が聞ければあのように歌えたらなあと思うし、リズムに乗ったボップスを聞けばじゃあ自分も次はリズミカルな曲をやってみようかと考える。それから、レパートリーが限られている私には次に何を歌おうか時間に追われて心配する必要がないのも「カラオケバー」の良い点だ。他の客と話が弾めば歌よりも会話を中心にすればいいし、歌いたい歌が見つからない場合は他の人に順番を譲ればいい。一時間いくらで場所を借りる「カラオケボックス」と違って時間を気にして歌を選ぶ必要もない。つまり、「カラオケバー」の場合酒を楽しむという本来の楽しみに加えて、歌を歌ってフラスト解消もできるし、他の客との会話も楽しめるわけだ。

 一方、「カラオケボックス」は歌を歌うことに重点が置かれる。「カラオケボックス」の場合、身内のグループで繰り出すので他の客と交わるということがない。部屋の中は気心が知れた仲間だけだから気がねなく歌を楽しむことができる。歌が上手でも下手でもみんな知った仲だから余計な心配をせずに歌を歌える。飲み物は電話で注文でき、酒が飲めなくても全然関係ない。午後「カラオケボックス」を良く利用するのは、奥さん連中と中、高校生だそうで、彼等の場合酒抜きで歌を楽しむ。ただ、料金が一時間いくらと決まっているので、できるだけ時間を無駄にしないように次から次に歌を歌う。仕事の後会社の上司や同僚と行く飲み屋、学生が同じクラブやサークルの人達と行くコンパ、などと同じように「カラオケボックス」は身内のグループと一緒に行く所として社会的地位を獲得した。 一般的に、学閥、門閥、派閥、などという言葉に代表されるように日本人は何らかの集団に属していないと不安を感じる傾向がある。幼稚園のX組、学校のクラブ活動、愛好会などを通して小さい時から集団の一員として生活する教育を受ける。常に「集団の和」を重視し、集団の中の自分という見方をするように訓練を受ける。集団の活動を促すという意味で考えると「カラオケ」は我々の日常生活の中で重要な役割を果たす。「カラオケバー」を利用するか「カラオケボックス」を利用するかはその集団の好みによる。しかし、いずれにしても「集団の和」を重視する日本人の性癖から判断して、また歌を歌うことでストレスがかなり解消されることから考えると、将来「カラオケ」はますます繁盛するこどだろう。(速水健次郎「辛口エッセー」)

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