日本語教育裏話


「料理は私に任せなさい!」


池田先生(左)と得意の料理の腕を奮っている坂本先生

  今から10数年前私はボストンで日本語を教えていました。今考えるとそら恐ろしいことですが、若い時というのは厚顔無知で怖さというものを知りません。ボストンでも超一流のハーバード大学で自分よりずっと頭のいい学生を相手に知能指数95の私が大きな顔をして教えていたのですから、今考えると本当に恥ずかしい限りです。当時ハーバードには若い優秀な先生がたくさん揃っていました。現在オーストラリア国立大学で教えていらっしゃる池田俊一先生、ボストン郊外のタフツ大学で教鞭を取っていらっしゃる森田喜代子先生、今日本に戻られ南山大学で女子学生に囲まれて毎日楽しげに教えていらっしゃる坂本正先生などそうそうたるメンバーがいらっしゃいました。今はお亡くなりになったモネイン先生を中心に勉強会を月一回催して熱心に討論に明け暮れました。
  皆さんとはバラバラになってお会いする機会がほとんどありませんが、坂本先生とは先生が日本にお帰りになってから、4ー5回お会いしました。名古屋で数回、東京駅のレストランで一回話をしたのを覚えています。坂本先生はユーモアたっぷりで冗談を言うのがお好きです。ウイスコンシンの三浦先生にしゃれを仕込まれたのでしょうか、それとも元々ユーモアに富んでいるのかは定かじゃありません。でも、お会いすると二人でよく冗談を言って笑い合っています。坂本先生とは料理で忘れられない思い出があります。私も料理が大好きでもう20年近く週末にはいつも日本料理を作りますが、坂本先生もボストンにいらした頃は池田先生とアパートで共同生活をしていらして自炊なさっていました。
  ある時どうしてだったか覚えていませんが、池田先生と坂本先生が突然同僚全員をアパートに招待してトンカツパーティーなるものをして下さいました。野郎二人の共同生活はまともな生活じゃないことはジャック・レモンとウォルター・マッソーの"Odd Couple"を見てもよく分かります。一体どうなるのか内心ビクビクしながらアパートを訪れました。もう10数年前のことですから、詳しいことは何も覚えていません。ただ一つ今でも強烈に印象に残っているのは、出されたトンカツです。勿論その当時はボストンというアメリカの大都会にいても、日本料理の材料はなかなか手に入りませんでした。異国の地で日本で食べるのと同じようなトンカツが食べられることを期待するのは期待し過ぎでしょう。でも、出来るだけ日本で食べるのと同じようなトンカツが食べたいと思いたい気持ちはみなさんもよく分かるでしょう?
私達がアパートに着いた時、お二人は上の写真でもお分かりのようにエプロンまでして作る気満々で、もうかなり料理が済んでいました。トンカツも小麦粉、卵、パン粉で包んであって、あとは揚げるだけになっていました。それはそれはかなり厚いトンカツで本当においしそうでした。厚さは1.5センチくらいあって、日本のレストランで食べたら数千円はするだろうと思われました。夕食前ですからみんなお腹が空いていてトンカツができるのを今か今かと待っていました。トンカツを揚げていてひっくり返す時の動作などとても堂に入ったものです。キャベツのサラダ、御飯、味噌汁まで作って下さって、後はトンカツが出来るのを待つばかりです。カツを揚げるいい匂いが漂って来て、思わずよだれが出てきそうになりました。
しばらくしてやっと全員のトンカツが出来て食べる時間になりました。トンカツは色といい形といい日本で食べるのと全く同じようです。いや、男性二人が苦労して作ったことを考えると、それ以上に思えました。上膳、末膳でトンカツが楽しめるなんてもう最高です。私たちは早速食べ始めました。味噌汁から手をつける先生もいます。御飯から手をつける先生もいます。私はトンカツパーティーはトンカツを食べるためのパーティーだから当然初めにトンカツに舌鼓を打って苦労をねぎらった方がいいと考え、大きめに切り大きな口を開けてトンカツを頬ばりました。トンカツの味が口の中いっぱいに広がりました。おもむろに味わおうと思って歯を動かし始めると、「ガツッ」と何かに当たるではありませんか。歯が折れたのではないかと一瞬ギョッとしました。ものすごく固い何かに歯がぶつかったのです。すぐトンカツを取り出して中を見ると、何と直径2センチの骨がついているではありませんか?!?!驚いてお二人を見ると、坂本先生(か池田先生だったか記憶は定かではありません)が「あ、そうだ。皆さんに言っておくのを忘れていました。骨も入っていますから、召し上がる時注意して下さい」とおっしゃいました。よくよくお話を伺って見ると、何とポークチョップに使う肉をお使いになったということでした。それじゃあ歯にガツッと来るのも当り前だわな、と変なところで納得しました?!?!でも、味はとても良かったです。坂本先生、池田先生またあのトンカツが食べたいですねえ、、、。
最後に、坂本先生は去年凡人社から「学習者の発想による日本語表現文型例文集 ー 初級後半から中級にかけて」という本を出版されましたが、その本は数か月凡人社の売り上げナンバー1になるほどよく売れて、例文集として多くの先生方に使われています。(凡人社の売り上げナンバー1が数ヵ月続くというのは異常も異常、未だかつて私の記憶にありません!)多分皆さんものご存じでしょうが、まだの方は是非一度本屋でご覧下さい。お薦め品です。


名古屋大学の藤原先生がボストンに遊びにいらした時坂本先生がロブスターで歓迎会をした時のスナップ写真。みんな若い時があったんだ?!?!左から藤原先生、森田先生、知らない人、坂本先生


1986年シカゴでの学会で。左から坂本先生、モネイン先生、知らない人、森田先生、池田先生

怎Cジケビッチ
日本語のホームページに戻る