アメリカの飛行機会社は国内線で切符の安売り競争に血眼になって、利益を度外視してお客の確保に奔走しているように見える。国際線でも、太平洋路線ではアメリカン、ユナイテッド、デルタ、ノースウエスト、アメリカン各社が日本のANA,JALとの競争に勝ち抜くべくサービスを向上させようとしている。航空運賃をこれ以上下げることは出来ないから、代わりに様々なサービスを提供して、お客を自分の会社に引き入れようと努力している。アルコール類の無料提供、映画/音楽鑑賞用イヤホーンの無料提供、日本人スチュワーデスの数の増加、ある一定の距離を旅行した客に無料の切符を提供、など数々のアイデアで客を呼び込もうとしている。外国語が苦手でアルコール、音楽鑑賞を好む日本人に対するサービスとしては上記のようなこともある程度アピールするだろう。
しかし、大多数の乗客にとって最も大きい苦痛は、本人の意志に関わりなく狭い機内に長時間閉じ込められ、肉体を動かす自由を奪われることであろう。ただ席に座るだけで、出来ることはトイレに向かう行き帰りに狭い通路を歩いて手足を伸ばすことぐらいである。いくらジャンボ機が大きいからと言って、自由に走り回ったり、好き勝手に動き回ったりすることが出来るわけではない。ほとんどの乗客は、動かしたくても動かせない体を持て余しているのではないだろうか。一列に出来るだけ多くの乗客を詰め込んで座席を増やして、収益を増やそうと考えるのも一理あろう。しかし、それは会社側の論理であり、利益中心の考え方である。乗客のニーズに合ったサービスとは到底言えない。狭いスペースで体の自由を抑制された乗客の不満を解消させられるようなサービスを提供出来ないだろうか。現実には様々なことが可能である。
先ず、国際線ではたいていジャンボ機、DC10など大型の飛行機が導入されていて、四六時中エンジンの大きい音がしている。エンジンの近くの空間は少々騒音があってもエンジンの音にかき消されるであろう。この際思い切ってカラオケボックスを設置してみてはどうだろうか。大概日本人は団体旅行で、すぐ3−4人の集団が出来、カラオケがやれるし、個人の旅行客には全く面識のない人とカラオケをすることによって親近感が湧き、カラオケ以後も話がはずむかもしれない。大声で絶叫すれば、少しは欲求不満の解消になるであろう。最近の技術の進歩によりカラオケセットもポータブルになり、軽いのは20ポンド以下なので機内に取付けるのも容易である。
また、ジャンボ機の2階をスポーツジムにしてはどうだろうか。固定式自転車やボート漕ぎの装置などを設置して、乗客に利用してもらう。そうすれば運動不足でイライラすることもなくなるので、かなり多くの乗客が利用するのではないだろうか。 両者とも時間制にして一人最高30分まで、とか決める。また、自転車30分100円、1曲100円とか、有料にする。そうすれば、乗客にとっては体を動かしたり、絶叫したりすることによって、多少は欲求不満が解消できるし、会社にとっても現金収入が見込まれ、一石二鳥になる。
これからは厳しい競争を乗り切るためにも、従来の企業中心の発想を180度転換し、乗客がより快適な空の旅が出来るように乗客中心のサービスを本気で考える姿勢がより重要なのではないだろうか。(速水健次郎「辛口エッセイ」)