日本とアメリカを結ぶ太平洋路線の飛行機に乗って常に感じるのは、スチュワーデスの語学力の相違である。今まで何度も飛行機に乗ったが、日本語を話す西洋人のスチュワーデスに会ったことは未だに一度もない。日本航空、全日空のスチュワーデスは大多数が日本人で、日本語と英語を話すし、大韓航空や中華航空等アジアの国々の飛行機のスチュワーデスは、それぞれの国の言葉と英語を話す、というふうに少なくても二か国語を話す。これに対して、ユナイテッド、ノースウエストオリエント、デルタ等アメリカの航空会社のアメリカ人スチュワーデスの中で何人が二か国語を話すことが出来るであろうか。
アメリカの航空会社の機内では、席に座っていて何か飲みたくなった、雑誌が読みたくなった、等という簡単なことだったら、「コーラ、プリーズ」とか「週刊朝日、プリーズ」とか言えば、アメリカ人スチュワーデスは理解してくれるが、お土産を買い過ぎて課税されるものがあるので税金の申告はどうすればいいか、飛行機が遅れて乗り継ぎの飛行機に間に合わないのだがどうしたらいいか、等その上のレベルの複雑なことになると、彼女等にはお手上げになる。
勿論アメリカの飛行機なのだからスチュワーデスが皆英語を話すのは当然であろう。しかし、乗客は多種多様であり、日本語しか話さない日本人もかなりの割合を占めるに違いない。そういう日本人の相手をするのは誰か?当然日本人のスチュワーデスということになる。ところが、普通10数人スチュワーデスがいるジャンボ機の場合でも、日本人スチュワーデスは一人か二人しかいないのである。従って、日本人スチュワーデスが世話をしてくれる確率は極めて少ないということである。まさか、アメリカの飛行機なのだから、乗客は英語を話すべきだ、等という考え方が飛行機会社側にあるわけではないであろう。ということは、日本人の乗客が多い太平洋路線でそれだけ乗客に対するサービスが悪いわけである。外国語が上手でない日本人は、運賃が大体同じぐらいだったら、日本語が出来るスチュワーデスが少ない飛行機会社と、ほとんどのスチュワーデスが日本語を話す飛行機会社のどちらを選ぶであろうか。答えは明白である。
日米貿易収支の不均衡を是正するために、最近アメリカは日本に、アメリカ製品を買うようにという圧力をかけている。仮に日本人がアメリカのフォードやジェネラルモーターズなどの車を買うとしよう。先ず、問題になるのは運転席がアメリカと同じ左側にあることである。交通渋滞が頻繁に起こる日本の道で、左側通行なのに左側に座って運転するのは至極不便である。よくステータスシンボルのためにわざと運転席を左側のままにしておく、と言われるが、実用面から考えるとはなはだ不便極まりない。しかも、アメリカ車は、日本車と比較して車幅がずっと広く、狭い道が多い日本では接触事故等が起こりやすくなるし、車庫に入れる時等余分な神経を使わなければならない。
幸い順調に走っている間は問題がない。ところが、一度故障すると実に厄介だ。先ず、部品の交換に時間がかかる。修理工場に部品があればいいが、往々にしてない。そのため何日も車が使えなくて不便な思いをすることがよくある。叉、普通は部品の値段が高くて余計に金を払わせられる。時には、使い方の説明書が英語のままであったり、非常に複雑で分かりにくかったりする。面倒臭いことばかりなので、買うのを諦めてしまいかねない。
しかも、日本の消費者はかなり贅沢で、燃費とか価格など実用的な面ばかりではなく、あまり重要とは思われない細かいところまで気にする。例えば、塗装が一定でなく見た目がよくない、車内のデザインが大雑把で垢抜けしない、カーステレオなどの車内のアクセサリーが少ない、等小さいことでアメリカ車を買うのを見送ることがよくある。
飛行機の場合も、自動車の場合も、消費者に対するサービスが問題なのである。日本人の消費者のニーズは当然アメリカ人の消費者のニーズと異なる。それを綿密に調査せずに、会社側の意向を強制するだけであったら、日本の市場で成功するのは無理であろう。市場調査等を行なって、日本人の消費者が何を求めているのか、それを満足させるにはどうすればいいのか、ということを見究めて、日本人の消費者の心を捕える努力をすれば、自ら道が開けて来るのではなかろうか。(速水健次郎「辛口エッセイ」)