毎年帰国して味わう楽しみの一つにスーパーへ行くことがある。アメリカのスーパーと比べると色々な面で違うのでいつどんなスーパーヘ行っても飽きない。今年も帰国してすぐ早速買い出しに行った。サランラップできれいに包装された果物、3個100円の大好物の納豆、アメリカでは味わえないごぼう、沢庵、やまいもなどの食料品、なつかしのゴキブリホイホイ。カートを押して隅から隅まで見て回った。
あるわ、あるわ、手抜き料理の材料が!「バンバンジーの素」、「麻婆豆腐の素」、「ママーミートソース」など肉や野菜と混ぜ合わせるだけで出来上がるものが所狭しと並んでいる。漬物にしても「朝漬けの素」とやらに漬けておくと30分でおいしい漬物ができるそうだ。また「レトルトパウチ商品」と称する湯の中や電子レンジで温めるだけで調理しなくても食べられる食べ物が数多くある。共稼ぎで時間的余裕のない奥さん達や料理の仕方を知らない独身男性のために食品会社が手のかからないものを安く提供しているのだろうか。何と親切なことだろう。
さらに、お惣菜コーナーにはコロッケ、メンチカツ、とんかつ、白身の魚のフライ、煮物、てんぷら、鶏の唐揚げなどが大きいスペースを占めている。大人だけでなく子供達が食べられるものもたくさんある。これらを買って食卓に出せば、わざわざ時間をかけて料理をする必要さえない。
コンビニへ行けば、独身者用の食べ物も簡単に手に入る。サラダを作る場合、キャベツ、きゅうり、トマトなど別々に買わなければならず一人だと余ってしまうことがよくあるが、そこはよくしたものでコンビニでは手頃な大きさと値段でパックに入った一人前のサラダが買える。調味料なども家庭用の大きなものではなく、適当な大きさのものが取りそろえてあって台所のスペースを取らないように考慮されている。弁当類もちょうど一食分入ったものを売っているし、食欲旺盛な人用には大盛り弁当まで用意されている。
料理関係の本も実に懇切丁寧だ。以前は完成した料理の写真と材料、作り方しか書いてなかったが、最近は作り方のところに野菜の皮を剥くところ、肉を調理するところ、肉と野菜を混ぜ合わせるところなど一つ一つ写真が載っていて簡単に料理が作れるように構成されている。料理が苦手な人でもステップバイステップで作れるようになっている。
以上のように、今の日本では料理をしたくなかったらしなくても食べるのに困らないようになっている。また、写真が豊富に掲載された料理の本が出回っているので、料理が苦手な人でもあまり困らずに料理が出来るようになっている。このようにすべての面で便利になっているが、果たして本当にそれでいいのだろうか。受験勉強に追われて母親から料理を教えてもらう機会がなかった学生、仕事に追いまくられていて食事を作る時間がないサラリーマン諸君には便利でいいかもしれない。また、共稼ぎで夫が料理を全く手伝ってくれない主婦だったら事情が事情だけにまだ許せる。退社後買い物をする時間も十分確保できず、急いで夫や子供達のために短い時間で料理をしなくてはいけない主婦の場合は仕方がないだろう。しかし、時間的に余裕がある家庭を預かる主婦が「ーーの素」を使って料理したり、レトルト商品を食卓に出したりするのには大きな抵抗を感じる。というのは、先日朝スーパーで二人の主婦の恐ろしい会話を耳にしたからである。
「あら、今日はお買い物?」
「ええ、午後からテニスをするので、今買い物なの」
「今晩のおたくの晩御飯は何?」<p> 「ギョーザと鳥の唐揚げにしようと思っているの」
「うわあ、手がかかる物作るのね」
「いいえ、冷凍のギョーザとお惣菜の唐揚げよ。自分で作ったら大変だもの」
「そうよねえ、私もお惣菜のてんぷらにするわ」
この後二人は夫はどこのスーパーのとんかつが好きか、子供はどこの店のメンチカツが好きかなどを話し合っていた。会話の内容からはよくできあいの食べ物を買っていることが明白だった。
電化製品の発達でただでさえ家事は短時間でできるようになっているのに専業主婦や数時間だけパートをする主婦が家族への愛情の証しの一つである料理まで放棄するとは一体どういうことだろう。「愛情弁当」まで作った方がいい、なとど言っているわけではない。家族がそろう晩御飯ぐらいじっくり時間をかけておいしい料理が作れないのだろうか。ごくたまによんどころない事情で料理をする時間がなくて仕方なくできあいの物を食卓に出すというのなら分かるが、それが度重なるようだったらちょっと問題ではないだろうか。おたくの晩御飯が、崎陽軒のシュウマイ、丸美屋の麻婆豆腐、「朝漬けの素」で漬けた漬物、丸美屋の即席味噌汁、レトルト商品の赤飯だったら、あなたは夫としてどうする?(速水健次郎「辛口エッセイ」) Back to the List