「食事とサービス」

 日本に来たアメリカ人がレストランで食事をして一番喜ぶのは、チップのことを心配しなくてもいいことだ。アメリカにはウエイトレス/ウエイターのサービスが良かったかどうかによって、食事の最後に食事代の15%とか20%のチップをテーブルに置く習慣がある。チップはウエイトレス/ウエイターにとって死活問題で、ニューヨークやシカゴなどの大都市の日本食のレストランでは、日本人の客がチップを置き忘れることを心配して勘定の中にチップを含めるところもあるくらいだ。たいていウエイトレス/ウエイターの給料は安くて、良いサービスをお客に提供することで多くのチップをもらうようになっている。アメリカ人は小さい時からチップを払うことに慣れているが、それでも電卓なしでチップを計算するのはアメリカ人にも厄介である。
 そのアメリカ人は例外なく日本のレストランのサービスの良さに感心する。言葉遣いの丁寧さ、しぐさの優雅さ、接客態度などアメリカのウエイトレス/ウエイターと比べるとずっと高いプロ意識を持っているように感じられる。マクドナルドなどのファストフードの店員も同じで、東京のマクドナルドでも金沢のマクドナルドでもお客に対する返答のしかたは同じで、マニュアルを使って教育をしているなと分かるほど訓練が行き届いている。日本語があまり分からないアメリカ人でも日本のレストランのウエイトレス/ウエイターのサービスの良さは即座に判断出来る。
 あるレストランは、店の前に食べ物のサンプルを置いて、どんな食べ物をいくらで売っているか分かるようにしてある。テーブルに座ればすぐにウエイトレス/ウエイターがおしぼりと水を持って来る。ある店では、メニューが食べ物の写真付きで、日本語が分からなくてもどんな料理がいくらか一目で分かる。料理を注文するとウエイトレス/ウエイターが注文を復唱して間違いがないように確認する。至れり尽せりのサービスである。ここまでは完璧なサービスで、アメリカ人は、アメリカにもこんなすばらしいサービスがあったら楽しい食事ができるだろうな、と思うことだろう。
 ところが、注文した料理が来る段階になると、状況は一変する。というのは、アメリカでは複数の客が一つのテーブルに座って料理を注文すると、たいていウエイトレス/ウエイターは全部の料理を同時に持って来るから、日本に来たアメリカ人はそれが当然だと思い込んでいる。しかし、日本でも同じように同じ時に料理が来るだろうか。残念ながら答えは「ノー」である。これは推測に過ぎないが、料理人は注文を聞くと即座に料理を作り始める。当然料理によって出来上がる時間が違うから、ラーメンなどの料理は比較的短い時間で出来上がり、グラタンなどじっくり焼き上げなくてはいけない料理は時間がかかる。その結果、ある料理は5分ほどでテーブルに来るが、ある料理は15分もかかるということになる。日本人は、最初の料理がテーブルに来たら、その料理を食べる人に同じテーブルにいる誰かが、「冷めますから、お先にどうぞ」と言う。料理を目の前にした人は、「じゃあ、お先に」と言って食べ始める。アメリカのレストランではたいてい同じ時に注文した料理が来るから、この問題がない。では、日本で初めてこの問題に直面した時、アメリカ人はどうするだろうか?もちろん一人だけ食べ始めることはない。最後の料理が来るまでみんな辛抱強く待つ。料理が全部テーブルに揃って初めて食べ始める。最初に来た料理が温かい麺類だったら悲劇である。
 すべて他のサービスがすばらしいのに、注文した料理が同時に来ないで、別々に来るというのは一体どうしてだろうか。お客に最高のサービスを提供すべく努力している日本人が、この点について配慮しないのは不思議だ。週末の過ごし方で一般的なのは、家族でドライブをして外食をすることだそうだが、外食産業はこの点に気が付いていないのだろうか。料理が別々の時にテーブルに来る原因は、二つあると思われる。一つは、お客を待たせるのは失礼で、温かい料理をできるだけ早くお客に提供しようという考え方にある。お客はお腹を空かせて店に来る。料理を待つ時間をできるだけ短くすることが良いサービスにつながる、と考えているのではないだろうか。だから出来上がった料理からどんどんテーブルに運んで、温かいうちにお客に食べてもらおうとする。二つ目は、料理人の都合で料理を作っているからである。注文を受けてすぐ作り始めるために、ある料理は数分で出来、ある料理は長い時間かかる。そのため、出来た料理からテーブルに持って行く。これは、みんなで一緒に食事を楽しみたいというお客のニーズを全く無視し、料理人の都合だけを考えた論理である。料理を同時に提供するためには厨房で料理人がどの料理に何分かかるか熟知した人が必要である。特に、和食、洋食、中華など複数の料理を提供して、複数の料理人がいるレストランではこのマネージャー役が重要な鍵になる。注文を受けて、調理に時間がかかる料理はすぐに料理人に注文を出して、しばらくしてから短時間でできる料理を料理人に作ってもらい、全部の料理がほぼ同じ時に出来上がるように調整する。アメリカでこれができるのだから、日本でできないわけがない。
 ほとんどの日本人は休日に外食をすることを楽しんでいるだろう。特に、料理から解放される主婦には、上げ膳据え膳で自分の食べたい料理が食べられるのは何とすばらしいことだろう。それが愛する家族とならなおさらだ。そんな時に自分の料理がテーブルに来て、子供達がまだ料理を待っていたら、その主婦はどうするのだろうか。夫やお腹を空かせて待っている子供に、「お母さん、冷めるから先にどうぞ」と言われて、「あっ、そう。じゃあ、お先に」と言って何の抵抗もなく食べはじめられるとは思えない。たとえ食べ始めるとしても、何か罪悪感のようなものを感じながら食べ始めることであろう。全部の料理が同じ時に来て、同時に「頂きます」で食事が始められたら、全員が料理を満喫することが出来る。サービスを重視する日本人が注文された料理を同時に出せないわけはない。消費者が立ち上がり、外食産業にさらなるサービスを提供してもらう時ではないだろうか。金沢を起点にして、「料理同時提供運動」キャンペーンを始めようではないか。

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怎Cジケビッチ