ジェーンは日本に来て3ヵ月の若い女性です。日本人の家庭にホームステイしています。ある日、ちょっと風邪をひいたので近くの病院に行きました。待合室で順番を待っていると、向こうのほうに見慣れた顔を見つけました。ジェーンがホームステイしている家から駅まで歩く道沿いに住んでいて、天気がいい朝はいつも家の前を掃除している婦人です。時々、帰り道でも出会って話をしたりします。その人はジェーンに気がつかないまま看護婦さんに呼ばれ、ある診察室に入っていきました。ジェーンはその診察室の表示が読めなかったので通りかかった人にききました。
「ああ、あそこは眼科だよ」
「えっ?ガンカですか?」
ジェーンは驚きました。あんなに元気そうな人なのに、ガンだなんて。家に帰ってからホストファミリーに話しました。お母さんも驚きました。
「そうなの、かわいそうにね」
「今度会ったら何と言ったらいいですか」
「そうねぇ、お見舞いの言葉は難しいけど、、、『たいへんですね』、『気を落とさないで下さい』とか『早くよくなって下さい』『きっとよくなりますよ』なんて言うのがいいと思うけど。最後には『お大事に』と言いなさい」
次の日の朝、その人はいつもと同じにほうきで家の前を掃除していました。
「おばさん、昨日病院に行きましたね」とジェーンは言いました。
「あら、見られちゃった?」
「たいへんですね」
「老眼だからね。いやになっちゃうよ」
「そうですか。low ガンですか」
ジェーンはどこか体の下のほうにできたガンだと思いました。なぜなら日本人は言いにくいことはいつも英語を使って言い換えるからです。
「気を落とさないで下さい」とジェーンは言いました。
「まぁ、それほど深刻には思っていないけど、、、」
「早くよくなって下さい」
「ありがとう、、、でもこれは治らないのよ」
「いいえ、きっとよくなりますよ」
「そうかい???」
「お大事に」
歩きながらジェーンは、いつかお葬式での挨拶も習っておいたほうがいい、と考えていました。その日、一日をジェーンは暗い気持ちで過ごしました。夜、家に帰ると、さっそくお母さんに話しました。
「あの家のおばさん、high ガンだそうです」
「ええ?肺癌?まあ、どうしましょう。あなた、あそこの奥さん、肺癌ですって」
お父さんも驚きました。
「へぇ、そりゃあ大変だ」
ジェーンはお母さんに聞きました。
「あのお、、、high ガンってどこのガンですか」
「肺はここよ」
そう言ってお母さんは手のひらで自分の胸をたたきました。ジェーンは自分が言い間違えたことに気がつきました。
「あ、違います。間違えました。low ガンです」
「え?ロウ癌?」お母さんは眉をひそめました。
「あなた、ロウ癌って、聞いたことある?」
お父さんもけげんそうな顔です。
「さあ、いろんなガンがあるけど、ロウ癌というのは聞いたことがないなあ。どんな癌なんだろうか。明日会社で皆に聞いてみるよ。きっと誰かが知っているよ」
「お願いね。あなた」
「そうですか。めずらしいガンなんですね」とジェーンは言いました。
「そうだな。でも簡単に治る癌かもしれないよ」とお父さん。
「いいえ、おばさんは、このガンは治らない、って言っていました」とジェーン。
するとお母さんは顔を曇らせて、
「まあ、最初からそんな弱気になってはいけないわ。『病は気から』って日本では言うのよ。今度会ったら、本当に気をしっかりもってがんばって下さい、と言いなさい」とジェーンに言いました。
「はい、わかりました」とジェーンは答えました。
翌朝、またおばさんに会いました。ジェーンはお母さんに言われた事を思いだしながら言いました。
「おばさん、本気をしっかり持ってがんばって下さい」
おばさんはなぜか驚いた様子です。
「えっ?しっかり持って?まあ、ねぇ、毎日がんばっているけど、、、??」と言いながらほうきをしっかり持ってせっせと掃除を続けます。
「もっとがんばれ、ってい うのかい?」
「はい、もっとがんばって下さい」。ジェーンは自分の気持ちがおばさんに通じて欲しい、と思いました。(終)
怎Cジケビッチ
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