単身赴任に関する諸問題

 アメリカではあまり見られないが、日本の会社には「転勤」という独特の制度がある。「転勤」は普通一方的に会社の命令でなされるので、サラリーマンにとっては避け得ないものである。この数年、東京、大阪などの大都市から福岡(ふくおか)、広島(ひろしま)、札幌(さっぽろ)など地方に転勤になる場合、「単身赴任」が急激に増える傾向にあるという。三十代の男性は十人に一人の割合だが、子供が多くなるにつれて、また自分の家を持つ人が多くなるにつれて単身赴任の割合も増え、四十代では十人に三人が、五十代では十人のうち五人も単身赴任するという。
 単身赴任が増えている最も大きな理由は、「子供の教育」のためである。教育水準が高い大都市に住んでいれば、子供は良い環境で勉強ができる。有名校に入り、良い塾で勉強できれば大学受験の時有利である。ところが、教育水準が大都市ほど高くない地方都市へ引っ越したら、子供の学力が低下してしまう恐れがある。子供を一流大学に入れたいと思ったら、家に子供を残さざるを得なくなり、子供の世話をするためにも母親も子供とともに残るということになる。
 「自分の家を持っているから単身赴任しないわけにはいかない」というのが次に大きな理由である。外国と比較して土地の値段が極端に高い日本で自分の家を持つことは非常に困難であり、地価が急騰している現在それは一般大衆の「夢」になりつつある。たとえ自分の家が持てたとしても、多くの人は銀行などから借金をして家を建てるので、将来何十年も借金の返済に追われる人が少なくない。幸運にも家を建てるという夢を実現できた人にとって家を手放すなどということは絶対に想像できないことだ。従って、家族が残り夫だけ単身赴任する。
 親が同居している場合、家族全員が引っ越すのは難しくなる。普通親は長年住み慣れた土地を離れたがらないし、子供は新しい土地で親に苦労をかけたくないと考える。親を置いて自分達だけ地方に行ったら生活費が二重にかかるし、近所の人に親不幸とか、親の面倒を見ない駄目な子供とか思われる。そのため、妻・子供が家に残り、仕方なく夫が一人で行く。
 また、妻が仕事をしている場合も多くある。日本で女性が重要な地位につくのは難しいし、一度やめたら同じような職につくのはもっと困難だ。何らかの理由で妻が仕事をやめない方が良い場合、妻が家に残って仕事をすることになる。この場合、仕事をしながら子供の世話ができるのは当然妻の方であるので、ここでも夫の単身赴任ということになる。
 上に述べた四つの理由は家庭生活上大変重要な問題であるが、ここで少し見方を変えて、夫の立場から「転勤」について考えてみよう。
 近年家族が最も大事だと考える男性が増加しているが、日本の平均的男性は未だに仕事が最も重要であると考えている。それ故、会社に地方への転勤を命じられると、会社のためにそれも仕方がないと考えるのが大多数である。ところが、前に述べたような理由で、単身赴任しなければならないとしたら、どんな心境になるだろうか。
 一般的に言って、日本人の男性で、仕事をしながら家事を苦にせずにできるような人は極めて少ない。会社のことで忙しく、頻繁に家で食事を作ったり、掃除・洗濯等をしたりする人はほとんどいず、妻が全部してくれるのが普通である。そういう人達が、朝起きてから夜寝るまですべて自分でしなければならなくなったとしたら、それは大変なことだ。それでも、平日は忙しく、仕事のことで頭がいっぱいで気が紛れるだろう。毎週週末に家族の所へ戻れるのならばまだ救いはある。しかし、現実には月に一ー二回しか家へ戻れない。週末家族とゆっくりくつろぐべき時に、ただ一人でいなければならないのは精神的に非常に苦痛だ。四十代、五十代になってから知らない土地に行って新しい生活を始めると、何かとストレスがたまるであろう。仕事のストレス、新しい生活から来るストレス、家族と一緒に生活できないことから来るストレス等がたまると、精神的におかしくならない方が不思議なくらいである。
   最近四十代、五十代の男性の自殺が急激に増えている。その大きな原因の一つに「転勤」「単身赴任」の問題があることは確かだ。これは、日本の教育制度、雇用制度と深い関係があるのみか、子供の非行の問題、家庭崩壊の問題、夫婦・親子のあり方とも密接に関係しており、容易には解決できない問題である。子供の教育・経済的な問題を重要視し単身赴任にするか、あるいは、家族が協力して充実した家庭を築く方を尊重し、家族の全員が一緒に生活するのを選ぶかはそれぞれの家庭によって異なるだろうが、安易に「単身赴任」を選ぶべきではないのではなかろうか。

転勤(てんきん) transfer
一方的(いっぽうてき)な one-sided
避(さ)ける to avoid (t.v.)
単身(たんしん) alone
赴任(ふにん) appointment
傾向(けいこう) tendency
割合(わりあい) ratio
水準(すいじゅん) standard
環境(かんきょう) circumstances, surroundings
塾(じゅく) Juku, cram school
受験(じゅけん) taking the entrance examination
引(ひ)っ越(こ)す to move out into a new house (i.v.)
学力(がくりょく) scholastic (academic) achieve
低下(ていか)する to fall, drop (i.v.)
恐(おそ)れ danger, fear
値段(ねだん) price
極端(きょくたん)に extremely
困難(こんなん)な=むずかしい
地価(ちか) land value
急騰(きゅうとう)する to rise suddenly (i.v.)
夢(ゆめ) dream
借金(しゃっきん)debt, loan
返済(へんさい) payment
借金の返済に追(お)われる to be busy with loan payments
幸運(こううん)にも fortunately
実現(じつげん)する to realize (i.v.)
手放(てばな)す to sell (t.v.)
同居(どうきょ)する to live together (i.v.)
全員(ぜんいん)=みんな
離(はな)れる to leave (t.v.)
生活費(せいかつひ)=生活するためのお金(かね)
二重(にじゅう)に doubly, twice
親不幸(おやふこう) want of filial piety, undutifulness to one's parents
ーの面倒(めんどう)を見(み)る to take care of - (t.v.)
重要(じゅうよう)な=大事(だいじ)な
地位(ちい) position
職(しょく) job
立場(たちば) position
近年(きんねん) in recent years
平均的(へいきんてき) average
未(いま)だに still, yet
それ故(ゆえ) therefore
大多数(だいたすう) majority
心境(しんきょう) mental state
一般的(いっぱんてき)に言(い)って generally speaking
ーを苦(く)にする=ーを大変(たいへん)だと思(おも)う
頻繁(ひんぱん)に frequently
平日(へいじつ) weekdays
気(き)が紛(まぎ)れる to be distracted (i.v.)
救(すく)い relief
くつろぐ to relax (i.v.)
苦痛(くつう) pain
たまる to accumulate, build up (i.v.)
自殺(じさつ) suicide
制度(せいど) system
雇用(こよう) employment
非行(ひこう) wrong doing, misdeed
崩壊(ほうかい) collapse
密接(みっせつ)に closely
容易(ようい)に easily
解決(かいけつ)する to solve (t.v.)
協力(きょうりょく) cooperation
充実(じゅうじつ)した fruitful, fulfilled
築(きず)く to build, make (t.v.)
安易(あんい)に simply
選(えら)ぶ to choose (t.v.)

次の質問に答えなさい。
1.日本でサラリーマンが単身赴任をする4つの大きな理由を簡単にまとめなさい。  a.

 b.

 c.

 d.

2.単身赴任のサラリーマンにストレスがたまる原因を簡単に説明しなさい。

怎Cジケビッチ
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